11月10日(土)、『江戸城外濠内濠全周ウォーク』の第8回に参加してきました。今回第8回はシリーズのメインとも言える回で、和田倉御門→楠木正成像→二重橋→西の丸大手御門→西の丸下乗門→伏見櫓→坂下御門→内桜田御門(桔梗御門)→桜田二重櫓→大手御門→大手門三ノ御門→中ノ御門→御書院御門(中雀御門)→本丸御殿跡→富士見櫓→松の大廊下跡→富士見多聞→天守台跡→北桔橋御門→梅林坂門→平川御門…と江戸城本丸に向けて、大名達の登城ルートを中心に歩きました。
さすがに江戸城の中心部、見どころがいっぱいあり過ぎて、歩き終えた感想を先に書くと、おなかいっぱい…って感じです。さてさて、うまくブログにまとめきれるかどうか…。
今回【第8回】のスタートポイントは、前回【第7回】のゴールだった和田倉門。【第7回】の最後にも書きましたが、和田倉門内には、幕末期、陸奥国会津藩23万石 松平容保の上屋敷がありました。松平容保といえば、幕末期に京都守護職として京の都の治安維持に努めた人物です。ですが、その結果としては……。気の毒としか言いようがありません。
明治維新後、この陸奥国会津藩松平家の上屋敷跡には旧幕府軍を威圧するために軍事防衛を司る兵武省が置かれました。しかし、明治5年(1872年)2月26日、その兵武省から出火。丸の内、銀座、京橋、築地と約28万坪を消失させる「銀座大火」を引き起こしました。そこで、新政府は不燃化都市建設を目指して、我が国初の歩道と車道を区別した幅27メートルの道路と、その道路に向かい合うようにして銀座煉瓦街通りが建設されました。この「銀座大火」に関しては会津落城の怨念説が巷で囁かれたと言われています。
現在、この陸奥国会津藩松平家の上屋敷跡は和田倉噴水公園になっています。和田倉噴水公園は昭和36年(1961年)に当時の皇太子殿下(現在の今上天皇陛下)の御成婚を記念して噴水が作られたのが始まりで、その後、改修され、様々な噴水が美しい水の景色を演出しています。
その和田倉噴水公園からは桔梗濠を挟んで桜田巽櫓、そしてその先に内桜田御門と富士見櫓が小さく見えます。富士見櫓は江戸城旧本丸の南東端に位置する櫓で、江戸城で現存する唯一の三重櫓です。天守閣が明暦3年(1657年)の大火(明暦の大火)で焼失した後、再建されなかったので、この富士見櫓が天守閣に代用されたと伝えられていて、今でも多くの人が江戸城天守閣と言うと、この富士見櫓をイメージされるのではないでしょうか。現在の富士見櫓は明暦の大火の後、万治2年(1659年)に再建されたもので、時の第4代将軍徳川家綱がここを江戸城の天守とみなす…としたことから、これ以降諸藩では再建も含め天守閣の建造を控えるようになり、事実上の天守閣であっても、徳川将軍家に遠慮して、「御三階櫓」と称するなど高さ制限を自主的に設けるようになりました。
江戸時代から天守閣が現存する城は全国で12あり、このうち弘前城(文化8年(1811年)に竣工)、備中松山城 (天和3年(1683年)に竣工)、丸亀城(万治3年(1660年)に竣工)、松山城(安政元年(1854年)に竣工)、宇和島城(寛文11年(1671年)に改修竣工)の5つの城の天守閣がそれにあたり、禄高のわりには天守閣が小さいという特徴を持っているのは、そのせいです。国宝に指定されている松本城、彦根城、犬山城、姫路城、松江城の5つの城は全て江戸時代以前に建設された天守閣が残る城であり、それ以外の丸岡城と高知城の2つの城の天守閣は江戸時代に建てられたものですが、万治2年(1659年)より前に建てられたものなので、その限りではありません (また、近年になって復元された城の天守閣は、どうしても一番大きかった時代のもので復元する傾向にあり、参考になりません)。
このあたりのことは富士見櫓の項で改めて書かせていただきます。
和田倉噴水公園の横を「行幸通り」が内濠を横切るように伸びています。この行幸通りは東京駅正面の丸の内中央口から皇居外苑を抜け、西にある皇居に向かってまっすぐ伸びる道路です。この道路は、大正12年(1923年)の関東大震災の復興再開発の際に、皇居から東京駅まで一本で行けるようにと作られた道路で、大正15年(1926年)に開通しました。内濠の埋め立ては難工事であったと伝えられています。当初は中央部分は高速車線で、外側にイチョウ並木、緩速車線、歩道と配置されていましたが、後に高速車線は天皇の行幸(いわゆる外出)および信任状捧呈式に向かう外国大使の専用道とされ、一般車の立ち入りは禁止されました。その後、専用道としての使用機会が減ってきたことから、再整備された後に平成22年(2010年)に歩道として一般開放され、現在に至っています (ただし、天皇の行幸時などには通行が制限されます)。また、地下には「行幸地下ギャラリー」と呼ばれる地下通路が平成19年(2007年)に開通しています。これはもともと駐車場スペースだったものを歩道に再整備したものです。
東京のど真ん中にあるこの行幸通りをほぼ毎月のように2頭立ての臙脂(えんじ色)をした菊の御紋章の入った儀装馬車の車列が走り抜ることがあるのをご存知でしょうか?
皇居「松の間」で執り行われる信任状捧呈式(しんにんじょうほうていしき)に向かう外国の駐日特命全権大使が乗った馬車です。
信任状捧呈式とは、着任した特命全権大使または特命全権公使が、派遣元の元首から託された信任状(この者を外交官と認めて頂きたい旨が記された、元首からの親書)を、派遣先の元首に提出する儀式のことです。日本における信任状捧呈式は、日米和親条約による開国から大政奉還までは征夷大将軍が執り行ってきましたが、王政復古の大号令以降は、天皇陛下が執り行っています。日本国憲法の下でも、日本に駐箚する特命全権大使や特命全権公使の信任状は、日本国憲法第7条第9号に基づき天皇が接受することになっています。という事で、日本国憲法に明文化されていませんが、信任状捧呈式を執り行うということは、日本の元首は言うまでもなく天皇陛下であるということです。これは国際常識になっています。ちなみに、日本の外交官も海外へ大使などとして派遣される場合は、天皇陛下の認証した信任状を持参します。
日本の信任状捧呈式では、新たに赴任した各国の大使はJR東京駅から皇居宮殿南車寄までこの行幸通りをまっすぐ西に進むルートが必ず使われます。ふだんは通行止めにされている行幸通りの中央部分の4車線ほどのスペースがとかれ、交通規制が敷かれます。その中を東京駅から2頭立ての臙脂(えんじ)色の菊の御紋章の入った儀装馬車がゆっくりと走り抜けます。この時、大使の随行員が乗る馬車と警護の皇宮警察及び警視庁の騎馬隊を加えた馬車列を編成します。馬車を操るのは宮内庁の職員です。駐日大使館に着任したばかりの外国の特命全権大使(夫妻)はこの馬車に乗り、皇居へ向かうわけです。沿道の人が手を振れば、大使夫妻は笑顔で手を振り返してくれるのだそうです。
実はこの間の移動手段としては自動車か儀装馬車を選ぶことが出来ることになっているのですが、ほとんどの大使が馬車での皇居移動を選ぶのだそうです。当然ですね。当初は馬車が大使館まで迎えにいっていたそうなのですが、交通事情によりそれが不可能になり、廃止の声が出ました。しかし、各国の大使からの存続の要望があまりにも強かったことから、コースを短縮して残すことになったのだそうです。現在はJR東京駅丸の内口貴賓玄関から皇居宮殿南車寄までの間を送迎しています。各国大使はJR東京駅丸の内口貴賓玄関まで大使館の自動車で来て、そこで馬車に乗り換えます。面倒なことのように思えますが、それでも馬車を選ぶのだそうです。信任状捧呈式の際に新任大使にこのような馬車での送迎が行われている国は、現在では日本のほかにはイギリス、オランダ、スペインなど、ごく一部の立憲君主国に限られているようで、各国とも馬車での送迎が経験できる駐日大使は外交官の憧れのポストになっているのだそうです。
ちなみに、送迎に使われる馬車の大部分は明治後期から昭和初期に製造されたもので、内外装共に美術品的な価値が高い煌びやかなものです。
なお、日本の信任状捧呈式は、皇居宮殿「松の間」にて執り行われます。新任の特命全権大使や特命全権公使は、そこで派遣元の元首からの信任状を、正礼装のモーニング姿の天皇陛下に対して捧呈します。天皇陛下は、傍らに侍立する日本の外務大臣にその信任状をお渡しになるとともに、特命全権大使や特命全権公使に対してお言葉をかけられます。そして、随行員等が紹介され、大使は天皇陛下と握手して式は終わります。また、前任の特命全権大使や特命全権公使の解任状を捧呈する「解任状捧呈式」も、これに併せて執り行われます。この間、約10分です。式が終わると大使ら一行は馬車でもときた道をJR東京駅丸の内口貴賓玄関まで戻ります。
日本の皇室は世界最古にして最後の王朝。天皇陛下の権威はローマ法王と並んで世界のツートップとの言える存在です。これは世界常識になっています。伝統的な馬車に乗って天皇陛下のもとへ行き、信任状を捧呈する。これがどれほど栄誉なことか、知らぬは日本人ばかりなのかもしれません。
最近は今上天皇陛下がご高齢なため、お身体を気遣って信任状捧呈式は数ヶ国分が1日にまとめて執り行われることが多く、30分ごとに別々の国の大使が馬車に乗って皇居に向かうこともあるのだそうです。
私は信任状捧呈式に臨む各国大使を送迎する儀装馬車の車列が行幸通りを通ることは知ってはいたのですが、平日に執り行われることなので、これまで一度も見たことはありません。是非一度見てみたいと思っています。いつ信任状捧呈式があるのかは1週間前に宮内庁のHPに掲載されるそうなので、それをチェックして近いうちに見に行きたいと思います。
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