公開日2024/01/03
[晴れ時々ちょっと横道]第112回 令和6年 ジモト学のススメ
旧宇和島街道の法華津峠から見た法華津湾(宇和海)の風景です。遠くに藤原純友が本拠とした日振島、そしてその先には九州の南部、さらに太平洋まで見えます。私はここから見た風景が、日本で一番好きです。
皆様、新年、明けましておめでとうございます。
今年一年が皆様にとりまして素晴らしい一年になりますことを、心よりお祈り申し上げます。
現在、全国各地で地方からイノベーションを興そうという動きが活発になってきています。嬉しいことに愛媛県でも、松山市を中心に職種・職域・企業の垣根を超えたビジネスパーソンのコミュニティ『たてヨコ愛媛』が活発に活動を行っていたり、「波のないセトウチに波を立てる」を合言葉に瀬戸内地域の若手経営者らが一堂に会して地域経済の活性化などについて考えるイベント『BLAST SETOUCHI』が愛媛県発祥で開催されたりしています。私が会長を務めさせていただいている愛媛デジタルデータソリューション協会(EDS)でも、愛媛県中小企業家同友会様や松山市中小企業振興円卓会議様から委託を受けて開催している「松山DX勉強会」も3年目を迎え、来年度は県内他の自治体様からも開催の御依頼を受けているところです。これにとどまらず、愛媛県内各地で愛媛からイノベーションを興そうという同様の動きが幾つも出てきており、私がデジタル人材育成関連の講義で教壇に立たせていただいている松山東雲女子大学では、今年4月に、その名も「地域イノベーション専攻」という新しい学科も誕生します。これは本当に素晴らしいことだと、私は思い、「愛媛の未来は明るい!」…と心から感じているところです。
そうした地域にイノベーションを興していこうという素晴らしい動きの中で、最も重要なことは、その地域の強み、その地域が潜在的に持つポテンシャルを正しく理解し、その強み・ポテンシャルをベースに、それらを最大限に活かす方法を考えていくことだ…と思っています。
経営戦略策定の基本的な手法の1つに「SWOT分析」と呼ばれるものがあります。SWOT分析とは、経営目標を達成するために意思決定を必要としている組織や個人が、事業環境変化に応じた経営資源の最適活用を図るために、自らが置かれている外部環境や内部環境を正しく分析・評価するための基本的な経営手法のことです。SWOT分析では、自らが置かれている外部環境や内部環境を強み(Strength)、弱み (Weakness)、機会 (Opportunity)、脅威 (Threat) の4つのカテゴリーに分けて分析し、事業遂行上の競合やプロジェクト計画などに関係する脅威や機会を表面化していきます。私も崖っぷちの状況に立たされていた気象情報会社の経営を立て直すために、このSWOT分析を用いました。経営立て直しのための戦略策定は、このSWOT分析だけだったと言っても過言ではありません。結果、創業以来10年連続赤字で累積損失の山。崖っぷちの経営状態だった会社のビジネスモデルを根本的に変革し、僅か3年で単年度黒字に持っていき、以降、連続して黒字経営が続いています。おかげで、膨大に蓄積していた累積損失も解消させることができ、株主様に毎年配当が出せる会社にもすることができました。
このように、経営戦略立案においては極々基本的な手法ではありますが、ちゃんとその意味を理解して使えば、そのくらい実用的で効果のある手法であると言えます。
経営戦略策定フレーム:SWOT分析。 |
その私の経験から言わせていただくと、SWOT分析において一番重要なのはS、すなわち自社(自分)の“強み(Strength)”を正しく理解できているかどうかだと思っています。自社(自分)の“強み(Strength)”を正しく理解できていないと、分析を進めていく中で、どうしても単なる“悲観論”に陥っていく傾向になってしまいます。また、ありきたりの一般論に陥ってしまいがちで、独自性など出しようがなく、自社の今後の命運を左右するような具体的、かつ実行性(実効性)のある経営戦略を打ち出すことなど、到底できることではありません。地域イノベーションにおいても、同様のことが言えると私は思っています。愛媛県という地域が持つ強み(Strength)と潜在的なポテンシャル(Potential)を正しく理解しておくことが、すべてのスタートです。この正しく理解した愛媛県が持つ強み(Strength)と潜在的なポテンシャル(Potential)を用いて真剣にSWOT分析を行うことで、地域でイノベーションを興すための様々なビジネスの戦略やアイデアがいろいろと浮かんでくる…と、私は経験から思っています。
この愛媛県が持つ強み(Strength)と潜在的なポテンシャル(Potential)の理解には、単に現在目に見えている社会的な事柄だけにとどまらず、自然環境(地形・地質を含めた地理的環境や気象・気候環境)や歴史、文化、風習といった非常に多岐に渡る視点から、もう一度愛媛県、さらにはご自分が住む自治体等を冷静に眺めて、分析する必要があります。私は高校を卒業した18歳の時に生まれ育った郷里四国の地を離れ、長く首都圏で仕事をし、埼玉県に自宅を構えてそこで暮らしてきました。そして縁あって63歳の時に郷里愛媛に戻り、現在は実家のある愛媛県松山市と自宅のある埼玉県さいたま市を毎月のように行き来する二拠点生活を送っています。
そのような私だからこそ見えてくる愛媛県の強みや潜在的ポテンシャルの高さがあります。15年間も気象情報会社の社長を務めさせていただいたこともありますが、私は自然環境を眺めるのが好きで、これまで全国、いや世界中、いろいろなところに行ってきました。しかし、愛媛に拠点を移してみて、愛媛、もっと言うと四国ほど自然環境の面で面白いと感じられるところはないな…と今は思っています。四国は中央構造線をはじめ4本の主要な構造線(断層帯)が東西を横切り、その構造線に挟まれた地質帯は形成された時代や形成する岩石の成分がまるで異なっています。そこが周囲を太平洋、瀬戸内海、豊後水道、紀伊水道といったまったく異なる性格を持った海で囲まれています。まるで四国という島全体がジオパークと呼んでもいいほどの興味深いところです。このうち、中央構造線と御荷鉾構造線に挟まれた三波川変成帯は実は地下資源の宝庫とも言えるところで、別子銅山や佐々連鉱山、市之川鉱山をはじめ大小幾つもの鉱山が存在していました。
歴史的にも、愛媛というところは現代の私達が思っている以上に、日本国において重要なところでした。現代では忘れ去られているようなところもありますが、平安時代後期から鎌倉時代にかけて、伊予国(現在の愛媛県)の国司である伊予守は、当時国内に60ヶ国余りあった律令国(令制国)の国司の中でも最上位の格式がある官位の一つで、あの平重盛や源義経といった歴史上の有名人達もこの伊予守に任命されていました。これは当時の伊予国がトップクラスの「国力」を誇る律令国だったからです。また、江戸時代、伊予国(現在の愛媛県)には親藩、譜代、外様入り乱れて計8つの藩と幕府直轄領である2つの天領が存在しました。その石高の合計は45万両近くに及び、これは岡山藩や広島藩を凌ぐほどの規模でした。おそらく江戸幕府は伊予国(愛媛県)の持つ潜在的なポテンシャルの高さを知っていて、その勢いを削ぐためにこんなに細かく分割したのではないか…と推察されます。こんな都道府県、私が知る限り、ほかにはありません。
このような地元住民の皆さんでもなかなか気づかない愛媛県の魅力につきましては、これまでこのコラム『晴れ時々ちょっと横道』の場で、私からいろいろとご紹介させていただいてきました。愛媛県が持つ強み(Strength)と潜在的なポテンシャル(Potential)の高さを知るにはこれまでとは違ったアプローチで愛媛県を眺めてみる必要があろうかと思います。それでご提案するのが『ジモト学』です。「地元学」ではなく、敢えてカタカナで『ジモト学』としたのは、地元のことを考えるための学問ということに加えて、自分自身のルーツ等についても調べ直してみるための学問という意味も込めました。前述のように、自らが持つ強み(Strength)と潜在的なポテンシャル(Potential)を知ることがイノベーションを興す源泉になるという考えでいますから。
この『ジモト学』、現在私がデジタル人材育成の関連で教壇に立たせていただいている県内6つの大学に対して、今年は開講に向けてのご提案を順次していきたいと考えております。
うーーーーーん、愛媛の未来は明るいです!!
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